酷暑の部活で頑張り続けていいのか|休む判断と生活の整え方

学びと生活

「ここで休んだら、逃げたと思われるかもしれない」。

大会前やレギュラー争いの最中なら、そう不安になるのも無理はありません。あと一本、あと一周を積み重ねた先に強さがある。普段なら、その粘りが力になる日もあります。

でも、酷暑の日まで同じように頑張り続けることが、本当に次の力につながるのでしょうか。

暑さが厳しくなると、体は熱を外へ逃がしにくくなり、動きや判断も少しずつ鈍っていきます。日本スポーツ協会も、暑いときに無理な運動をしても効果は上がらないとして、運動の強さを調整し、休憩と水分補給を行うよう勧めています。

休む判断は、頑張りを捨てることではありません。今日の練習だけでなく、明日の授業や、その先の競技生活まで守るための調整です。

酷暑の日、粘り強さが逆効果になるとき

運動をすると、筋肉は熱を生み出します。体は皮膚の血流や汗によって熱を外へ逃がしますが、気温と湿度が高く、日差しが強く、風が弱いほど、その働きは追いつきにくくなります。

暑さは、気温だけでは判断できません。湿度、日差しや照り返し、風の影響まで含めて見るために使われるのが、暑さ指数(WBGT)です。同じ気温でも、蒸し暑い体育館と風のある日陰では、体への負担が違います。「昨日と同じ気温だから大丈夫」とは決められません。

熱中症の初期には、めまい、立ちくらみ、大量の発汗、筋肉痛、こむら返り、生あくびなどが現れることがあります。状態が進むと、頭痛、吐き気、強い倦怠感、反応の鈍さ、意識障害につながり、命にかかわります。軽い違和感を「気合いが足りないだけ」と考えてしまうほど、対応は遅れやすくなります。

参考:日本スポーツ協会「熱中症予防5ヶ条」厚生労働省「熱中症が疑われる人を見かけたら」

気温だけでは分からない、WBGTという目安

文部科学省の手引きでは、学校の活動前と活動中にWBGTを測り、運動の実施や内容を判断するよう示しています。目安は次のとおりです。

WBGT 運動の目安 部活動で必要な判断
31℃以上 運動は原則中止 特別な場合を除いて中止します。特に子どもの運動は中止すべきとされています
28℃以上31℃未満 厳重警戒 激しい運動や持久走を避け、10分から20分おきに休憩し、水分と塩分を補います
25℃以上28℃未満 警戒 積極的に休憩します。激しい運動では30分おき程度を目安に休憩します
21℃以上25℃未満 注意 熱中症の兆候を見守り、運動の合間に水分と塩分を補います

出典:文部科学省「学校における熱中症対策ガイドライン作成の手引き」

ただし、WBGTが基準未満なら必ず安全という意味ではありません。手引きには、WBGTが28℃未満でも、運動の強さや個人の体調によって救急搬送された事例が記されています。睡眠不足の生徒と十分に休めた生徒、防具を着ける競技と軽装の競技を、同じ数字だけで扱うことはできません。

「基準未満だから続ける」のではなく、数字と体調のうち、より慎重なほうに合わせてください。WBGTは、無理を続ける理由ではなく、早めに調整するための目安です。

休むと遅れるように感じるとき

一回の休憩や欠席が、遅れのように感じられるのは無理もありません。休んだ時間は目に見えますが、防げた事故は何も起きないため見えません。だから、安全な判断ほど、その価値に気づきにくいのです。

それでも、酷暑の中で動き続けた時間が、そのまま成果になるとは限りません。体温が上がりすぎれば、運動能力や判断力が落ち、フォームも崩れやすくなります。日本スポーツ協会は、ジュニア期には余力を残し、スポーツ障害を起こさせない指導を考える必要があるとしています。

熱中症が疑われた後は、冷やして少し楽になったからと、その日の練習へ戻らないでください。文部科学省の手引きは、軽症でも当日の競技復帰を見合わせ、再開するときは運動の強さと量を少しずつ上げるよう示しています。

今日一日を休むかどうかだけでなく、来週も来月も練習を続けられるかで考えてみてください。その距離で見れば、休憩や欠席は後退ではなく、続けるための調整になります。

部活前の睡眠と体調が、暑さへの備えになる

熱中症対策は、練習が始まる前から始まっています。文部科学省と日本スポーツ協会は、疲労、睡眠不足、発熱、風邪、下痢などで体調が悪いと、体温を調整する力も落ちやすくなると説明しています。

  • 睡眠:夜更かしが続いた日は、「いつものメニューをこなせる日」と決めつけないようにしましょう。眠気や強い疲れがあれば、朝の時点で伝えてください。
  • 水分:喉が渇いてからまとめて飲むのではなく、暑い場所へ出る前と運動中にこまめに飲みます。長時間にわたって大量に汗をかく場合は、学校や指導者の計画に沿って塩分も補います。
  • 暑さへの慣れ:休み明け、梅雨明け、合宿初日など、急に暑くなった日は運動を軽くします。数日かけて、短時間の運動から少しずつ強度を上げていきましょう。
  • 予定の余白:部活、課題、塾が重なって就寝時刻が遅くなるなら、すべてを同じ強さで続けなくてかまいません。期限や優先順位を整理し、まず回復の時間を確保してください。

最後の項目は、熱中症だけの話ではありません。忙しい毎日の整え方は、関連記事「入学・進級後に忙しすぎるときの力の抜き方」でも紹介しています。

体調を伝えやすい部活にするために

体調を伝えることは大切です。ただ、安全を守る責任まで、生徒一人が背負う必要はありません。

文部科学省は、学校や指導者に対して、WBGTによる判断、休憩と水分補給ができる環境、すぐに冷却や救急要請ができる体制を求めています。体調不良を言いやすく、周囲も気づかえる雰囲気を作ることも、学校側の役割です。

長く説明するのが難しいときは、短い言葉でかまいません。

  • 「めまいがします。いったん休ませてください」
  • 「今日は寝不足で疲れています。メニューを軽くしたいです」
  • 「今日のWBGTと休憩の予定を確認してもいいですか」

伝えても受け止めてもらえない場合は、顧問だけで終わらせず、担任、養護教諭、保護者など、別の大人へ相談してください。緊急時に、周囲への遠慮を優先する必要はありません。

参考:文部科学省「学校教育活動等における熱中症事故の防止について」

症状が出たら、その場で運動を止める

めまい、立ちくらみ、こむら返り、大量の汗、生あくびなどがあれば、まず運動を止めて、冷房の効いた室内や風通しのよい日陰へ移ります。衣服や防具をゆるめ、首の周り、脇の下、脚の付け根などを冷やします。意識がはっきりして自力で飲める場合は、冷たい水分と塩分を補給してください。

自力で水が飲めない、反応がおかしい、意識がない場合は、迷わず119番へ通報してください。意識がはっきりしない人に、無理に水を飲ませてはいけません。休んでも回復しない場合も、医療機関につなぎます。

この場面で必要なのは、根性ではありません。異変に気づいたら、迷わず活動を止めることです。

明日以降も頑張るための五つの確認

  1. 朝、睡眠不足、疲労、発熱、風邪、下痢がないか。
  2. 練習前に、活動場所のWBGTと予定メニューを確認したか。
  3. 症状が出る前から、休憩と水分補給の時間が決まっているか。
  4. 体調不良を言える相手と、涼しい休憩場所があるか。
  5. 今日の練習が、翌日の授業や睡眠まで崩す量になっていないか。

明日の練習に行くために、今日は早く寝る。大会まで練習を続けるために、今日はメニューを軽くする。酷暑の日には、思い切って休む。どれも「頑張らない」選択ではありません。

頑張る気持ちは、大切にしてよいものです。ただ、その気持ちを明日以降へつなぐには、体調や学校生活まで見渡して、今日使う力を調整する必要があります。

次の練習で少しでも不安があるなら、始まる前に先生や保護者へ一言だけ伝えてみてください。「今日は寝不足です」でも十分です。その短い一言が、これから先も安心して頑張れる時間を守ってくれます。

参考資料

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