科目別・つまずきポイントとリカバリー法(国語・数学・英語の三本柱)
1. 中学生が勉強でつまずく本当の理由
1-1. 「やる気がない」ではなく、理解の穴があるだけ
テストの点が下がったとき、多くの保護者の方は「やる気がないのかな」「スマホのせいかな」と心配になります。ただ、学習のしくみを調べた研究では、成績が落ちる一番の理由は「モチベーション不足」よりも「基礎の理解に穴があること」が多いとされています。
中学生の勉強は、小学校の内容の上に積み上がっています。どこかの段差が高すぎると、その上に積み上げるのが苦しくなります。たとえば、
- 国語:語彙が足りないまま難しい文章を読む
- 数学:分数や割合があいまいなまま方程式や関数に入る
- 英語:be動詞と一般動詞の区別があいまいなまま長文を読む
このように、ひとつ前の単元でつまずきがあると、新しい内容が「知らない言葉だらけ」「急に難しくなった」と感じられます。ここで「もっと頑張りなさい」とだけ言っても、理解の穴は埋まりません。
大切なのは、子ども本人も保護者も「できない=能力がない」ではなく、「必要な土台がまだそろっていないだけ」と考えることです。そう捉えると、やるべきことが「怒る」ではなく「どこまで戻って復習するかを一緒に探す」に変わります。
1-2. つまずきサインを早めに見つけるチェックポイント
つまずきが深くなる前に、早めに気づけるとリカバリーも楽になります。次のようなサインがないか、テスト結果だけでなく日常の様子からも見てみましょう。
- 宿題にかかる時間が急に増えた、または極端に減った
- 「学校の授業がよく分からない」というつぶやきが増えた
- 同じ種類の問題で何度も同じミスをしている
- 特定の教科だけ、テスト前なのに自分から勉強しようとしない
- 丸つけや見直しを嫌がる(ミスと向き合うのがつらい状態)
これらが見られたら、「やる気の問題」と決めつける前に、「どのあたりから分からなくなったのか」を一緒にさかのぼってみるタイミングだと考えてください。具体的な科目別の見直しポイントと戻り方を、次の章から見ていきます。
2. 国語:読解と記述でつまずくポイントとリカバリー法
2-1. 文章を読んでも「頭に残らない」ときの戻り方
国語のつまずきで多いのが、「ちゃんと読んだつもりなのに、設問を見たら内容を覚えていない」というパターンです。これは集中力だけの問題ではなく、「読み取り方の手順」が身についていないことが原因のことが多いです。
国語の読解では、次のような「読みの型」があると理解しやすくなります。
- 段落ごとに「何について書いているか」を一言でメモする
- 接続語(しかし・だから・つまり など)に印をつけて、話の流れをつかむ
- 登場人物の「気持ちの言い換え」に線を引く(うれしい/ほっとした/安心した など)
戻り学習のポイントは、「教科書レベルの短い文章」でこの型の練習をすることです。難しい模試の文章で練習すると、内容そのものが難しすぎて、「型」に集中できません。
保護者の方ができるサポートとしては、
- 段落ごとに「ここは何の話?」と一言で説明してもらう
- 本文を見ながら、「この『しかし』の前後で、何がどう変わっている?」と聞いてみる
- 登場人物の気持ちを、「他の言葉で言い換えると?」と問いかける
など、「細かい正誤」よりも「大づかみで話の流れをつかめているか」を一緒に確認してあげるとよいです。
2-2. 記述問題が書けないときのステップ練習
記述問題が苦手な子どもは、「何を書けばいいか分からない」「書いてみても字数が足りない」と感じていることが多いです。これは、考える力が足りないというより、
- 設問が何を聞いているかを整理できていない
- 必要な要素をメモに分解する習慣がない
ことが原因です。
記述のリカバリー練習は、次のステップで行うと取り組みやすくなります。
- 〇×問題レベルまでいったん簡単にする
まずは記述ではなく、「本文のこの部分を抜き出す」「正しい選択肢を選ぶ」などの問題で、設問が何を聞いているかの感覚をつかみます。 - 答えの「材料」を箇条書きにする練習
いきなり文章で書かせず、「答えに入れないといけない言葉」をメモで3つくらい書き出す練習をします。 - メモをつないで一文にする
「だから」「そのため」「しかし」などのつなぎ言葉を使って、メモを一つの文にまとめる練習をします。
保護者の方は、模範解答と見比べて細かく添削するよりも、「必要な要素は入っているか」「質問にちゃんと答えているか」という2点に絞って見てあげると、子どももチャレンジしやすくなります。
3. 数学:計算・文章題・図形のつまずきとリカバリー法
3-1. 計算ミスが多いときに確認したいこと
数学でよく聞くのが「分かっているのに計算ミスが多い」という悩みです。ただ、よく見ると「分かっているつもり」で、実際にはルールがあいまいなまま解いている場合も少なくありません。
計算につまずくポイントとして多いのは、
- 正の数・負の数の符号の処理(マイナス同士のかけ算・わり算など)
- 分数の足し算・引き算での通分
- 文字式の計算での「同類項」と「そうでないもの」の区別
といったところです。計算ミスが目立つときは、まずこのあたりを「小学生~中1レベル」に戻って確認するのがおすすめです。
リカバリーのポイントは、
- 1日5〜10分でいいので「同じパターンの計算」をまとまって解く
- 間違えた問題は、「どの瞬間で間違えたか」を赤ペンで印をつける
- 同じミスを防ぐための「自分ルール」(例:マイナスが偶数個ならプラス、奇数個ならマイナス)をノートに書き出す
といった「ミスの原因をはっきりさせる勉強」をすることです。「もっと問題数を解きなさい」と量だけ増やしても、同じミスを繰り返すだけになってしまいます。
3-2. 文章題が苦手な子のための読み解き手順
文章題が苦手な子は、「数学というより国語の問題みたいで嫌だ」と感じていることが多いです。実際、文章題では「何を聞かれているかを日本語で整理する力」が必要になります。
文章題のリカバリーには、次のような手順を身につけるのが有効です。
- 数字に丸、条件に線を引く
問題文の中の数字(3個、120円など)に丸をつけ、「~より」「~だけ」「合計で」などの条件には線を引きます。 - 「聞かれていること」を日本語で一言メモする
「1個の値段」「全部の長さ」「速さ」など、求めるものをノートに書きます。 - 図や表に整理する
速さならみはじ(三角図)、割合ならくもわ(比の図)といった簡単な図を使い、「どこが分かっていて、どこが分からないか」を整理します。 - 式を立てる前に「足し算?かけ算?」を口で言う
式を書く前に、「これはまとめるから足し算」「同じものがいくつもだからかけ算」と声に出して確認するだけでもミスが減ります。
保護者の方は、途中式の細かい正しさよりも、「何を求めたいと思ったのか」「そのためにどんな図や表を書いたのか」といった思考の流れを聞いてあげると、子ども自身も考え方を整理しやすくなります。
4. 英語:単語・文法・長文のつまずきとリカバリー法
4-1. 単語が覚えられないときの覚え方を見直す
英語の単語は「覚える量が多すぎる」と感じやすい分野です。ただ、記憶のしくみからすると、「一度にたくさん覚える」より「少しずつ何度も思い出す」ほうが定着しやすいことが分かっています。
単語につまずいている場合は、次のような点を見直してみてください。
- 1日に覚える単語数を減らし、その分「同じ単語を何度も思い出す」時間を増やす
- 書くだけでなく、声に出して読んでから意味を言う(音と意味をセットにする)
- 「日本語→英語」だけでなく、「英語→日本語」もテストする
- 似た意味の単語をまとめて覚えず、できるだけバラバラに混ぜて覚える
家庭では、「今日覚えた単語を3つだけ教えて」といった声かけが役立ちます。子どもが自分の口で説明することで、記憶が強くなります。
4-2. 文法・並び替え問題で止まってしまうときの戻り方
文法につまずいている子どもは、「文の骨組み」がイメージできていない場合が多いです。中学英語の文は、基本的に「主語+動詞+(必要なら他の言葉)」という形になっていますが、この感覚があいまいだと、単語を並べ替えるときに混乱します。
リカバリーのステップは、次のような流れがおすすめです。
- 超基本文を日本語とセットで暗唱する
「I like ~.」「I have ~.」「I went to ~.」などの簡単な文を、日本語とセットで声に出して覚えます。 - 主語・動詞に印をつける練習
教科書や問題集の英文に、主語に○、動詞に△をつけるなどして、「文の骨」を目で確認します。 - 日本語から英語の語順に並べ替える練習
いきなりテスト形式にせず、カードやノートに単語を書いて並べ替えるなど、遊びに近い形で語順を身につけます。
保護者の方が文法を詳しく説明する必要はありません。「この文の主役(主語)はどれ?」「動きを表している言葉(動詞)はどれ?」と、一緒に探してあげるサポートだけでも十分効果があります。
5. 家庭でできる「つまずきリカバリー」を支える関わり方
5-1. 責めずに事実を一緒に整理する声かけ
つまずきをリカバリーするうえで、家庭での声かけはとても大きな影響を持ちます。成績が下がったときに「なんでできないの」「もっと頑張りなさい」と責めてしまうと、子どもは「できないところを見られるのが怖い」と感じ、勉強そのものから距離を取りたくなってしまいます。
ポイントは、「評価」よりも「事実の整理」を一緒にすることです。たとえば、
- 「今回のテストで、どの教科が一番やりにくかった?」
- 「その教科の中で、一番点が取れなかった問題はどのあたり?」
- 「そこをやり直すなら、どの単元まで戻れば安心できそう?」
といった質問で、子ども自身に状況を言語化してもらいます。「何点取ったか」より、「どこから分からなくなったか」を会話の中心に置くことで、勉強が少しずつ「怖いもの」から「調整できるもの」に変わっていきます。
5-2. 塾・学校・家庭学習の役割分担を決める
つまずきのリカバリーは、「家庭だけ」「学校だけ」「塾だけ」で抱え込む必要はありません。それぞれの役割をざっくり決めておくと、子どもも保護者も負担が軽くなります。
- 学校:新しい単元の説明、基礎問題の練習
- 塾:つまずき単元の戻り学習、応用問題の練習
- 家庭:今日やったことの「振り返り」と「できたこと探し」
家庭では、「何ページやった?」よりも「今日一番うまくいったことは?」「逆に、もう少し練習したいところは?」といった会話が効果的です。短時間でも、毎日少しずつ学習を振り返ることで、理解の穴が大きくなる前に気づきやすくなります。
国語・数学・英語の三本柱は、一度つまずいても、正しい場所まで戻ってコツコツ積み直せば必ずリカバリーできます。大切なのは、「どこからやり直すか」を冷静に見極めることと、子どもが「やり直せば大丈夫」と感じられる環境を家庭で整えていくことです。


