「ゲームばっかりして!」「スマホ置いて!」
気がつけば、毎日のように同じ言い合い…というご家庭も多いと思います。
ただ、ゲームやスマホは完全に「悪者」でもなければ、完全に「味方」でもありません。
大事なのは、家族で納得して決めたルールと、ムリのない時間設計です。
この記事では、感情論ではなく、心理学や教育の知見をふまえながら、
「ケンカになりにくいゲーム・スマホのルールづくり」のポイントを整理していきます。
なぜゲーム・スマホでケンカになるのか?
① ゲーム・アプリは「やめにくいように」設計されている
多くのゲームやSNSは、次々と報酬(アイテム・いいね・通知など)がもらえるように作られています。これは、脳の「もっと!」を引き出す仕組みで、大人でもつい触り続けてしまうくらい強力です。
つまり、子どもが「やめられない」のは、意志が弱いからではなく、そもそもそう設計されている側面があります。
② 大人の「将来」と子どもの「今」がぶつかる
保護者の頭の中には、
- 勉強の時間は足りているかな?
- 睡眠は削れていないかな?
- 視力やメンタルは大丈夫かな?
といった「将来」の心配がたくさんあります。
一方、子どもにとっては「今、このゲームのイベントが大事」「フレンドとの約束が大事」。
価値を置いている時間軸が違うので、同じ画面を見ていても感じ方がズレてしまいます。
③ 「正しさ」でぶつかると話し合いが止まる
「ゲームは1日○時間までが正しい」「いや、友だちみんなもっとやってる」…と、
どちらが正しいかの勝負になると、話し合いは行き詰まりがちです。
実際のところ、「○時間を超えたら即アウト」という明確な線があるわけではなく、
睡眠時間・運動量・家族との会話・学習などとのバランスが重要だと考えられています。
「禁止」より効きやすい2つの考え方
1.親子でいっしょに決める「合意形成」スタイル
最近の研究では、子どもと一緒にルールを話し合って決める家庭のほうが、
親が一方的に「ダメ!」と決める家庭よりも、子どものスクリーン時間が短くなる傾向が報告されています。
また、親が「命令」ではなく、子どもの気持ちを聞きながら理由を説明する伝え方をしていると、
ルールが守られやすくなるという調査もあります。
つまり、ポイントは
- 「やめなさい!」より「どうしたら気持ちよく区切れるかな?」
- 「親のルール」ではなく「家族のルール」にする
というスタンスです。
2.「時間設計」で守りたいものを先に決める
小児科や教育の立場からは、「スクリーンの時間」そのものよりも、何が削られているかに注目するよう勧められています。
例えば、
- 十分な睡眠(小中学生だとおおよそ9〜11時間)
- 1日1時間程度の体を動かす時間
- 家族や友だちと顔を合わせて話す時間
- 宿題・復習などの学習時間
これらを先に確保したうえで、「残り時間をどうスマホ・ゲームと使うか」を考えるほうが、現実的で続けやすくなります。
ステップ1:まずは「今の1日」を一緒に見える化
いきなりルールを決める前に、まずは現状を一緒に整理してみましょう。
◆ 24時間マップを作ってみる
紙に大きく「24時間の円」か「時間割」を書き、
- 睡眠
- 学校・塾
- 食事・お風呂
- 宿題・勉強
- 移動時間
- ゲーム・スマホ
などを書き込んで、一緒に色分けしてみます。
このときのポイントは、
- 「使いすぎ!」と評価しない(あくまで現状把握)
- 子ども本人にできるだけ書いてもらう
- 「どの時間帯はスマホがない方が楽かも?」と感想を聞く
です。
ステップ2:大人側の「守りたいライン」を整理する
次に、保護者の側で「ここだけは守りたい」というラインを言語化しておきます。
◆ 守りたいラインの例
- 就寝時間:小学生は21:30まで、中学生は22:30までには布団に入る
- 食事中はスマホ・ゲームなし
- 宿題と明日の準備が済んでからゲーム・スマホ
- ベッドの中にはスマホ・タブレットを持ち込まない
日本でも、スマホの利用時間や「何時以降は使わない」といった目安を示す自治体が出てきています。
例えば、「余暇のスマホ利用は1日2時間程度」「小学生は21時、中学生は22時以降は使わない」といったガイドラインです。
もちろん、各家庭の生活リズムに合わせて調整して構いません。
大事なのは「睡眠・健康・学習を守るためのライン」を、親が先に自分の中で整理しておくことです。
ステップ3:子どもと一緒に「ルール案」を作る
◆ 会話の入り方のコツ
いきなり「今日から1時間!」と宣言すると、ほぼ確実に反発されます。
おすすめは、次のような流れです。
- ① 「最近スマホ・ゲームでケンカが増えてきて、お互いしんどいなと感じてるんだけど、どう?」
- ② 「勉強や睡眠も大事だし、ゲームも楽しみだと思う。どっちも守れるルールを一緒に考えたい」
- ③ 「さっき書いた1日の時間を見ながら、平日と休日でどうしたいかアイデア出してみよ」
◆ ルールは「案」をいくつか提示する
一つだけ案を出すと、子どもにとっては「飲むか・反発するか」の二択になってしまいます。
例えば、
- A案:平日はゲーム・動画は合計60分まで。休日は90分まで。
- B案:平日は「夕食後〜就寝1時間前までのどこか30分」、休日は「午前30分+夕方30分」。
- C案:テスト1週間前はゲームお休み、その代わりテストが終わった週末に+30分ボーナス。
といった複数案を出して、「どれが一番やれそう?」と子どもに選んでもらう形にすると、納得感が上がります。
◆ 「もし〜なら〜」の条件つきルールも有効
例えば、
- 「宿題と明日の準備が全部終わっていたら、ゲーム30分OK」
- 「1週間、ルールを守れたら日曜に+30分」
のように、やるべきこと → 楽しみの順番を明確にしておくのも一つの方法です。
こうした「協議して作るルール」は、親の一方的な禁止より、子どもの自己コントロールの力と関連していることが分かってきています。
ステップ4:ルールは「紙」と「タイマー」で見える化
◆ 家族ルールを紙にして貼る
決めたルールは、親子で書いて、冷蔵庫やリビングの壁などに貼るのがおすすめです。
- 「平日のスマホ・ゲーム」欄
- 「休日のスマホ・ゲーム」欄
- 「NGタイム(食事中・入浴中・ベッドの中など)」欄
- 「親も守るルール」欄(食事中スマホを見ないなど)
「親も守るルール」を書いておくと、子どもだけが我慢させられている感覚が減り、協力しやすくなります。
◆ タイマー・アプリで「終わりのきっかけ」を用意する
子どもは「今やめる」のがとても難しいので、外からの合図があると切り替えやすくなります。
- キッチンタイマー・アナログタイマー
- スマホのスクリーンタイム・デジタルウェルビーイング機能
- ゲーム機本体のペアレンタルコントロール
タイマーが鳴ったら、
- 「今どこまで進んでる?」
- 「セーブポイントまではあと何分くらい?」
と一度状況を聞いたうえで、
「あと○分で切り上げよう」「今日はここまでにしよう」と声をかけると、子ども側のストレスが軽くなります。
ステップ5:うまくいかない時の「見直し方」
◆ いきなりペナルティを増やさない
ルールが守られないと、つい
- 「じゃあ明日からゲームなし!」
- 「もうスマホ取り上げる!」
と言いたくなりますが、まずはルールの方を見直すのがおすすめです。
チェックしたいポイントは、
- ルールが現実的だったか(時間が厳しすぎなかったか)
- 親の予定(残業・送迎など)と矛盾していなかったか
- 親自身も同じルールを守れていたか
などです。
◆ お互いの「言いぶんタイム」をつくる
「ルールを守らなかったね」だけで終わらせず、
- 「守りにくかった理由」を子どもから聞く
- 「親が困ったこと」も冷静に伝える
という双方向の振り返りをしていくと、少しずつ合意の精度が高まっていきます。
◆ 夫婦・家族の足並みをそろえる
同じ家庭の中で大人のルールがバラバラな場合、子どもが混乱しやすくなります。
「お母さんはダメって言うけど、お父さんはいいって言った」状態は、子どもにとってもストレスです。
可能であれば、大人同士で先に「我が家の方針」を話し合ってから、子どもと合流してルールを決めるとスムーズです。
年齢別に意識しておきたいポイント
◆ 小学校中学年〜高学年
- 時間の感覚がまだ曖昧なので、「30分」「1時間」より「この番組1本分」「宿題が終わってから夕飯まで」など具体的に。
- 「ゲームの前に今日やることリストにチェック」が習慣になると、中学生以降も役立ちます。
◆ 中学生
- 友だちとのオンラインコミュニケーションの比重が大きくなる時期。
- 「LINE禁止」など極端な禁止より、夜の時間帯・勉強中の通知オフなど、場面ごとのルールを重視。
- テスト前・行事前など、時期でルールを変える柔軟さも必要です。
学齢期(6歳以上)については、「何時間まで」と一律に決めるより、
睡眠・運動・学習・人との交流が十分に確保されているかでバランスを見る考え方が、専門家の間でも主流になりつつあります。
よくあるお悩みQ&A
Q1. テスト前だけ「ゲーム禁止」にしてもいい?
テスト前だけ極端にゼロにすると、終わった後に「リバウンド」しがちです。
おすすめは、
- テスト1週間前:時間を半分にする
- テスト3日前:平日は10〜15分の気分転換だけ
- テストが終わった週末:少し長めのご褒美タイム
のように、段階的に絞って・戻していく設計です。
Q2. 約束を守れなかったとき、どう罰すればいい?
「罰」を積み上げていくより、
- なぜ守れなかったのか一緒に分析する(タイマーが遠かった、通知が多すぎた など)
- 次に同じことが起こらないように、設定や環境を変える
という「原因探し&環境調整」のほうが、長い目で見ると効果的です。
Q3. 親がスマホを見ている時間も減らしたほうがいい?
子どもは「言葉」より「姿」を真似すると言われます。
家族全員でメディアの使い方を考える「ファミリー・メディア・プラン」をつくることを勧める専門家も多く、
大人のスクリーンタイムを見直すことは、子どもの習慣作りにもプラスになります。
おわりに:ルールは「縛るため」ではなく「安心の枠組み」
ゲームやスマホは、これからの社会において完全になくなるものではありません。
むしろ、上手につき合えれば、学びや人とのつながりを広げてくれる心強いツールです。
大切なのは、
- 子どもの「楽しみたい」という気持ち
- 保護者の「健康と学びを守りたい」という願い
この両方を大事にしながら、「合意形成」と「時間設計」でケンカになりにくいルールを作っていくことです。
完璧なルールを一発で作る必要はありません。
少し決めて、やってみて、振り返って、また直して…というサイクルそのものが、
お子さんの「自分でコントロールする力」を育てていきます。
もし「うちの場合はどう組み立てたらいいだろう?」というケースがあれば、
お子さんの学年や現状を書いていただければ、そのご家庭用のたたき台も一緒に考えていきましょう。


