もう忘れない!暗記学習の方法決定版
1. 暗記が苦手に感じる本当の理由
1-1. 「覚えたつもり」なのにテストで思い出せないのはなぜ?
「家では覚えていたのに、テスト本番で急に出てこない…」という経験は、多くの中高生が一度はしていると思います。これは、あなたの頭が悪いからでも、暗記のセンスがないからでもなく、「勉強のしかた」と「テストのしかた」がズレていることが大きな原因です。
家での勉強では、教科書やノートをじっくり読み、マーカーを引き、きれいなまとめノートを作る…という人が多いはずです。でも、テスト本番で求められるのは「読むこと」ではなく、「何もヒントがない状態から思い出すこと」です。この「思い出す」という練習をほとんどしていないと、頭に入れたはずの情報が、必要なときに取り出せません。
さまざまな研究をまとめたメタ分析では、「分散学習(時間をあけて勉強する)」と「テスト形式の学習(自分で問題を解く・思い出す)」が、暗記を長く保つうえで特に効果が高いことが報告されています。
反対に、「何度も読む」「線を引く」「きれいにまとめる」だけの勉強は、やった直後は「わかった気」になりますが、時間がたつと忘れやすく、テスト本番では力を発揮しづらいこともわかっています。
1-2. 脳のしくみと忘却曲線をかんたんに理解しよう
人の脳は、新しく覚えたことをずっと完璧に覚えておけるわけではなく、時間がたつにつれて少しずつ忘れていきます。この「時間とともにどれくらい忘れてしまうか」を表した有名なモデルが「忘却曲線」です。
忘却曲線によると、新しく覚えた内容は、最初の数時間〜数日で一気に忘れやすく、その後はゆっくりと忘れていくと言われています。何もしなければ、数日から数週間のあいだに半分以上を忘れてしまうことも珍しくありません。
でも、ここで大事なのは「だから暗記はムダ」ではなく、「だからこそ、うまいタイミングで復習すれば、長く覚えていられる」という点です。同じ内容でも、覚えた直後だけでなく、少し時間をあけて何度か復習することで、記憶がどんどん強くなり、忘れにくくなることがわかっています。これが「分散学習」「スペーシング」と呼ばれる考え方です。
2. 「とりあえず何度も読む」を卒業する暗記の基本原則
2-1. インプットより「思い出す」アウトプットを増やす
多くの人が「覚える=インプット(読む・聞く)」だと考えがちですが、実際に記憶を強くするのは「アウトプット(思い出す・書く・話す)」のほうです。問題を解いたり、何も見ずにノートの内容を再現したりする行為は、「記憶を取り出す練習」になり、脳にとってはかなり強いトレーニングになります。
おすすめの簡単な方法は次の通りです。
- 教科書やノートを1ページ読んだら、本を閉じて「今読んだ内容を3つ箇条書きでメモする」
- 英単語なら、単語帳を閉じて「日本語→英語」「英語→日本語」を自分テストする
- 歴史なら、年号だけ見て「このとき何が起きたか」を口で説明してみる
最初はなかなか出てこなくてモヤモヤしますが、その「うーん…なんだっけ?」と考える時間こそが、記憶を強くしてくれます。少しきついくらいのほうが、むしろ長く覚えられることが多いとわかっています。
2-2. まとめノートよりテスト形式の方が記憶に残る
カラフルなまとめノートを作ると達成感がありますが、その時間を「自分テスト」に変えた方が、暗記という点では効果が高いことが多いです。さまざまな研究をまとめたレビューでは、「練習テスト(practice testing)」と「分散学習(distributed practice)」が、他の多くの勉強法よりも成績の向上につながりやすいとされています。
例えば、まとめノートを作るかわりに、次のような「テスト形式ノート」にしてみましょう。
- 左ページ:質問(例:フランス革命が起きた年号ときっかけは?)
- 右ページ:答え(1789年、財政危機や身分制度への不満が高まり…)
覚えるときは「左ページだけ見て答えを書く/言う」。自分で作った問題集なので、教科書の丸暗記よりも理解も深まりやすくなります。
3. 成績が上がる暗記テクニック7選
3-1. 間隔をあけて復習する「スペーシング」
同じ内容を一気に何時間もやる「詰め込み」よりも、短い時間でいいので何日かに分けて復習するほうが、長期的な記憶には有利です。これが「スペーシング(分散学習)」と呼ばれる方法です。
最近のメタ分析でも、「同じ内容を時間をあけて思い出す練習(spaced retrieval practice)」は、最終的なテストの点数アップにつながりやすいことが確認されています。
実践しやすい復習タイミングの例は、次のようなイメージです。
- 1回目:新しく習ったその日(なるべく当日中)
- 2回目:1日後
- 3回目:3日後
- 4回目:1週間後
- 5回目:テスト直前に軽く確認
きっちりこの通りでなくてかまいません。「忘れそうになったころに、もう一度思い出す」ことがポイントです。
3-2. クイズ感覚で行う「自分テスト」
「テスト=先生にされるもの」というイメージが強いかもしれませんが、記憶を強くするうえで一番強力なのは、「自分で自分をテストすること」です。
例えば、次のような方法があります。
- 教科書を閉じて、欄外のキーワードだけを見て内容を説明する
- 単語帳や一問一答の「答えの部分」を紙で隠して、クイズのように解く
- 覚えたいものを小さな紙に書いて、シャッフルしてランダムに答える
大事なのは、「覚えたか不安なところほど、あえてテストしてみる」ことです。できなかった問題にはチェックをつけて、翌日またチャレンジしましょう。
3-3. いくつかの科目を混ぜる「インターリービング」
多くの人は「今日は英語だけ」「今日は数学だけ」と、同じ科目・同じ単元をまとめてやりがちです。でも、あえて違う種類の問題や単元を混ぜて練習したほうが、長期的な理解や応用力が高まることがあります。これが「インターリービング(交互学習)」です。
例えば、数学なら「一次関数の問題ばかり」ではなく、「方程式・一次関数・確率の問題を少しずつ混ぜて解く」。英語なら、「単語→文法→長文」を短いセットで回す、といった形です。
最初は「混ざっている方がむずかしい」「時間がかかる」と感じますが、その分、脳がしっかり考えようとするので、テスト本番での応用がききやすくなります。
3-4. つながりで覚える「ストーリー化・イメージ化」
人の脳は、バラバラな情報よりも、「意味のあるつながり」や「イメージ」と一緒になった情報のほうが覚えやすいと言われています。
例えば、歴史の年号を覚えるときに、
- 「1192(いい国)つくろう鎌倉幕府」のように語呂合わせにする
- 重要人物をドラマのキャラクターのように想像して、小さな物語を作る
- 英単語の意味を、自分の身近な経験と結びつけてイメージする
といった工夫をするだけで、記憶に残りやすくなります。ただし、語呂合わせだけに頼ると意味があいまいになってしまうこともあるので、「意味の理解」とセットにすることが大切です。
3-5. 自分の言葉で説明する「教える勉強法」
誰かに説明しようとすると、自然と「なぜそうなるのか」「どこがポイントか」を意識するようになります。このときも、記憶の取り出しと整理が同時に行われるため、理解も暗記もいっしょに進んでいきます。
身近に聞いてくれる人がいなくても大丈夫です。ノートに向かって「先生になったつもり」で解説を書く、ぬいぐるみに向かってしゃべってみる、スマホのボイスメモに録音してみる、などでも同じ効果が期待できます。
3-6. 手書きと音読を組み合わせて覚えるコツ
手を動かして書くことは、読むだけよりも注意を向けやすく、記憶に残りやすいと考えられています。また、声に出して読むことで、目・手・耳と複数の感覚を同時に使うことができ、集中力を保ちやすくなります。
おすすめは、
- まずは教科書を静かに読み、内容をざっくりつかむ
- 重要な部分だけ、声に出しながらノートに書き写す
- 書いたノートを、あとから音読しながら「見ないで言えるか」自分テストする
という3ステップです。「全部書き写す」は時間がかかりすぎるので、テストに出そうなところだけにしぼるのがコツです。
3-7. スマホアプリを上手に使うポイント
暗記カードアプリや単語アプリの中には、「間隔をあけて出題する(スペースド・リピティション)」機能がついているものも多くあります。これらは、先ほど紹介したスペーシングの考え方を、アプリが自動でやってくれるイメージです。
ただし、スマホはついSNSや動画に流れてしまいがちなので、
- 時間を決めて、1回10〜15分だけ使う
- ロック画面やホーム画面からすぐ開ける位置に「暗記アプリ」を置いておく
- 勉強用のアプリ以外は通知を切っておく
といった工夫をして、「勉強モード」と「遊びモード」をはっきり分けて使うのがおすすめです。
4. 今日からできる!1週間の暗記学習スケジュール例
4-1. テスト2週間前からの逆算スケジュール
ここでは、定期テスト2週間前からスタートした場合の、暗記中心のスケジュール例を紹介します。部活などもあることを想定して、「平日は1〜1.5時間、休日は2〜3時間」を目安に考えます。
| 日 | やることの例 |
|---|---|
| 2週間前の週末 | 範囲を確認し、「何をいつまでに覚えるか」をざっくり決める。主要科目の「1回目インプット」を一通り終わらせる。 |
| テスト10〜8日前 | 英単語・漢字・用語などの「暗記もの」を毎日20〜30分ずつ。1回目に覚えたところを、自分テスト形式で復習(2回目)。 |
| テスト7〜5日前 | 問題集・一問一答で「できなかった問題」にしぼって3回目の復習。インターリービングで、違う科目を混ぜて解いてみる。 |
| テスト4〜2日前 | ほぼ「自分テスト」だけにする。ノートや教科書を見ずに、覚えているかを書き出す→足りない部分だけ教科書で確認(4回目)。 |
| 前日 | 新しいことには手を出さず、「これだけは落としたくない」重要ポイントを軽く確認。夜は無理に詰め込まず、睡眠を優先。 |
このように、「インプット→自分テスト→間をあけて再テスト」をくり返すイメージで計画を立てると、忘却曲線に逆らう形で記憶を強くしていくことができます。
4-2. 部活・習い事と両立させる時間の使い方
部活や習い事があると、「家に帰るとクタクタで、勉強する気になれない…」という日も多いはずです。そんなときは、「長時間勉強」を目指すのではなく、「超短時間の暗記ブロック」を1日にいくつか作る発想に切り替えましょう。
例えば、
- 登校前の10分:前日に間違えた単語を5〜10個だけチェック
- 休み時間の5分:暗記カードを5枚だけ見る
- 帰宅後の15分:その日の授業のキーワードをノートに3つ書き出す
- 寝る前の10分:明日覚えたいところをざっと眺めておく
このような「すきま時間×短時間暗記」を積み重ねるだけでも、2週間たつころにはかなり大きな差になります。大事なのは、「毎日まったくやらない日を作らない」ことです。
5. 記憶を長持ちさせる生活習慣
5-1. 睡眠・運動・食事と記憶力の関係
暗記というと「勉強のしかた」だけに目が行きがちですが、「どんな生活をしているか」も記憶力に大きく関わっています。
とくに重要なのが睡眠です。子どもや思春期の世代では、十分な睡眠をとることで、記憶の整理や定着がスムーズに進むことが多くの研究で示されています。睡眠時間が足りないと、新しいことを覚える力も、覚えたことを長く保つ力も、どちらも落ちてしまうことが報告されています。
また、適度な運動も、注意力や記憶力、学力に良い影響を与えることが、複数のレビューやメタ分析で示されています。「運動の時間を増やすと勉強時間が減りそうで心配」という人もいますが、質の高い運動はむしろ集中力を高め、勉強にもプラスになる場合が多いと考えられています。
具体的には、
- 平日はできるだけ毎日、同じ時間に寝て同じ時間に起きる
- 寝る1時間前からはスマホやゲームを控え、目と頭を休める
- 部活や体育のない日でも、10〜20分は軽く体を動かす(散歩やストレッチでもOK)
- 朝ごはんを抜かず、炭水化物+たんぱく質(ご飯と卵・味噌汁など)をとる
といったことを意識するだけでも、記憶力の土台はかなり変わってきます。
5-2. テスト本番で「あれ…出てこない」を減らすメンタル管理
テスト本番で緊張しすぎると、頭の中が真っ白になって、覚えていたはずのことが出てこなくなることがあります。これは、ストレスで脳が「戦う・逃げるモード」になり、冷静に考える力が一時的に落ちてしまうためです。
少しでも落ち着いてテストに臨むために、次のような習慣をつけておきましょう。
- 本番に近い時間帯・制限時間で「模擬テスト」を何度かやっておく
- テスト前に深呼吸を3回して、「ここまでやったから大丈夫」と心の中でつぶやく
- わからない問題が出ても、「飛ばして後で戻る」を徹底する
「完璧に覚えなきゃ」と思うほど、プレッシャーが大きくなってしまいます。「忘れるのは当たり前。でも、うまく復習しておけば、思い出せることが増えていく」と考え方を変えるだけでも、気持ちはかなり楽になります。
6. まとめ:暗記はセンスではなく「やり方」で決まる
6-1. まずこれだけはおさえたい3つのステップ
ここまでいろいろな暗記法を紹介してきましたが、「全部いきなりやるのはムリ」という人は、まず次の3つだけ意識してみてください。
- (1) 一度読んだら、必ず「本を閉じて思い出す」時間を作る(自分テスト)
- (2) 同じ内容を、日をあけて2回・3回とくり返す(スペーシング)
- (3) 長時間よりも「毎日少しずつ」を続ける(すきま時間活用)
この3つを続けるだけでも、「覚えたつもり勉強」からは確実に卒業できます。成績が上がるのはもちろん、覚えたことを実際に使える場面も増えていくはずです。
6-2. 自分なりの暗記ルールを作って続けよう
暗記のコツには「科学的に効果が確認されている原則」がありますが、細かいやり方は人によって合う・合わないがあります。大切なのは、「自分なりの暗記ルール」を作り、それを少しずつ改造しながら続けていくことです。
例えば、
- 英単語は「朝の10分+寝る前の10分」に必ずやる
- 社会と理科は、「自分テストノート」を作ってクイズ形式で覚える
- テスト2週間前になったら、「新しいこと」より「復習」を優先する
といった「マイルール」を紙に書き出して、机の前に貼っておくのもおすすめです。暗記は才能ではなく、「脳のしくみに合ったやり方」を知り、それをコツコツ続けた人が勝ちやすい世界です。今日から少しずつ、あなたの記憶の積み木を積み上げていきましょう。

