中学内容のどこまで理解していれば、高校に行ってから困らないか
1. 高校で困らないための「最低ライン」とは?
「中学の内容を全部完璧にしてから高校へ…」と言われると、親子ともにちょっとしんどいですよね。実際には、すべてを100点で理解していなくても、高校に入ってから十分取り返せる部分もたくさんあります。
一方で、「ここがスカスカだと、高校に入ってから授業についていくのがかなり大変になる」という土台も、たしかに存在します。高校の教科書や授業は、中学の内容ができている前提で進むため、その前提部分が抜けていると、説明を聞いても何を言っているのか分からない…という状態になりがちです。
ここでは「ふつうの公立高校〜中堅レベルの高校」をおおまかな想定として、「このレベルまで理解していれば、致命的に困りにくい」というラインを、教科ごとにお伝えします。
1-1. 「全部わかっている」必要はない
学習の研究では、「新しいことは、すでに知っていることに結びつけながら覚えると理解しやすい」とされています。つまり、大事なのは「土台になる部分がある程度そろっているかどうか」であって、「テストで毎回満点を取れているかどうか」ではありません。
イメージとしては、次のような感覚です。
・中学で習う内容のうち、おおよそ7割くらいは「なんとなく分かる」状態
・その中でも、特に高校で何度も使う部分は「自分で説明できる」レベル
逆に、「範囲の半分以上がいつもチンプンカンプン」「教科書や問題文を読んでも、何をすればいいのか見当がつかない」という状態だと、高校に入ってからもつまずきやすくなります。
1-2. どの教科も共通の土台は「読み・書き・計算」
教科ごとのポイントに入る前に、すべての教科に共通する「最低限の土台」があります。それが
・文章を読む力(読解力)
・自分の考えを書く・説明する力
・基本的な計算力
です。
たとえば理科の計算問題でも、まず「問題文が何を聞いているのか」が読めなければ、式を立てることができません。社会の記述問題でも、「自分の言葉で短くまとめて書く力」が必要です。数学だけでなく、家庭科や技術でも、簡単な割合や比の計算はよく出てきます。
この「読み・書き・計算」がある程度しっかりしていれば、高校のどの教科でも、あとから知識を積み上げやすくなります。
2. 教科別:ここがスカスカだと高校でツラいライン
ここからは、教科ごとに「高校で困らないために、中学のどこまで分かっていればいいか」をざっくり見ていきます。
2-1. 数学:方程式・関数・比例/反比例がわかるか
高校数学は、中学数学の「文字式・方程式・関数」を太い柱として、その上にどんどん建物をつくっていくイメージです。なので、次のあたりがスカスカだと、高校で一気にきつくなります。
・正負の数、分数・小数を混ぜた四則計算がスムーズにできる
・文字式(x, yなど)を使った計算のきまりが分かる
・一次方程式、連立方程式を立てて解ける
・比例・反比例、一年生〜二年生の一次関数のグラフの意味が分かる
・図形の基本的な性質(角度の和、平行線、合同・相似など)を使って考えられる
チェックの目安としては、例えばこんな問題です。
・「2x+5=17 を解きなさい」と言われて、迷わず解けるか
・「y=2x+3 のグラフは、右上がり? 右下がり?」「xが1増えると、yはいくつ増える?」と聞かれて説明できるか
・「三角形の内角の和は180度」を使って、簡単な角度を計算できるか
もしこれらに強い苦手がある場合は、高校内容を進める前に、中学の該当単元に戻ってやり直しておくと、その後がかなり楽になります。
2-2. 英語:中学文法ひと通り+教科書レベルの英文が読めるか
高校英語では、中学で習った文法を「知っている前提」で、長めの文章を読んだり、より複雑な表現を学んだりします。そのため、次のような文法が、大きな穴なく一通りわかっていることが理想です。
・be動詞と一般動詞、三人称単数(he, she, it)の形
・現在形・過去形・未来(will / be going to)
・現在進行形(be ~ing)
・can, must, will などの助動詞
・不定詞(to+動詞)と動名詞(動詞+ing)の基本的な用法
・比較(〜より…だ、いちばん〜だ)
・受け身(be+過去分詞)
・関係代名詞 that, which, who の簡単な文
・if, when, because などのよく使う接続詞
完璧でなくてもかまいませんが、「見たことも聞いたこともないルールだらけ」という状態は避けたいところです。目安としては、
・教科書レベルの英文なら、辞書や訳を見ながら「なんとなく意味を追える」
・中1〜中3の教科書から短い段落を選んで、日本語でざっくり内容を説明できる
このくらいの力があれば、高校に入ってからも、単語や表現を増やしながら、少しずつレベルアップしていきやすくなります。
2-3. 国語:長文の要点をつかみ、自分の言葉で説明できるか
高校のどの教科でも、「問題文を読む→何を問われているか理解する」というステップは必ず通ります。その意味で、国語の読解力はすべての教科の土台と言えます。
最低限押さえておきたい力は、次のようなものです。
・400〜800字程度の文章を読んで、「何について書かれた文章か」「筆者がいちばん言いたいことは何か」を言える
・段落ごとに「ここでは何を説明しているか」をおおまかに整理できる
・「理由を答えなさい」と言われたとき、文章中からヒントを見つけて、自分の言葉でまとめて書ける
・中学で習う漢字の読みが、日常生活や問題文の理解に困らない程度には身についている
難しい評論文をすらすら読める必要はありませんが、「文章を読むのがとにかく苦痛」「問題文の意味がわからない」という状態だと、高校のテスト全般がつらくなります。新聞の子ども向けページや、10分程度で読める読み物など、日常的に文章に触れる機会を持てると安心です。
2-4. 理科:力・電気・化学変化・細胞のイメージがあるか
理科は高校で「物理・化学・生物・地学」に分かれていきますが、そのもとになる考え方は中学でほぼ出そろいます。特に、高校でよく使う土台は次のあたりです。
・物理:力のつり合い、速さ・距離・時間の関係、電流・電圧・抵抗の関係
・化学:原子・分子のイメージ、化学式の読み方、質量保存や状態変化
・生物:細胞のつくり、遺伝の基本(優性・劣性)、光合成と呼吸
・地学:天気図の見方、地層の重なりの基本的な考え方
ここで大事なのは、細かい語句を全部暗記していることよりも、「なんとなく頭の中にイメージがあるかどうか」です。たとえば、
・「電池を直列につなぐとどうなる?」と聞かれて、ざっくりイメージが言えるか
・「重い物と軽い物を同じ高さから落としたらどうなると思う?」と聞かれて、理由とセットで考えられるか
こうした「身の回りの現象を、理科のことばで説明しようとする」練習ができていると、高校理科への橋渡しがスムーズになります。
2-5. 社会:歴史の流れと地理の「ざっくり地図」が頭にあるか
社会は、高校では「日本史・世界史・地理・公共・政治経済」などに細かく分かれていきますが、中学の段階で完璧に覚えておく必要はありません。ただ、「全体の流れがまったく見えていない」と、高校で覚え直す量が増えて大変になります。
最低限、次のようなイメージがあると安心です。
・日本史の大きな流れ(縄文→弥生→古代→中世→近世→近代→現代)がなんとなく分かる
・世界史でも、「産業革命」「二度の世界大戦」など、大きな出来事の順番がイメージできる
・世界地図や日本地図を見て、「大まかな位置と特徴」が分かる国・地域がいくつかある
・ニュースで出てくる国名や出来事を聞いたとき、「だいたいどのあたりの話か」想像がつく
社会は、大人になってからもニュースや本を通じてじわじわ知識を増やしていける教科です。中学のうちには、「細部まで暗記」よりも、「ざっくりとした地図や時間の流れ」を頭の中につくっておくことを意識すると良いでしょう。
3. 家でできる「理解度チェック」とフォローのコツ
「うちの子は、どのくらい分かっているんだろう?」というのは、テストの点数だけではなかなか判断しにくいものです。家でできる簡単なチェックと、つまずいたときのフォローの仕方をまとめます。
3-1. テストの点より「説明できるか」を見る
理解度をはかるときにおすすめなのは、「これ、どういうこと?」と、子どもに説明してもらうことです。例えば、
・数学なら、「一次方程式って、どんなときに使うの?」
・英語なら、「この文って、日本語でどういう意味?」
・理科なら、「力がつり合っているって、どういう状態?」
など、教科書やワークの例題を見ながら、親が聞き役になるイメージです。うまく答えられなくても、「ここが曖昧なんだな」と分かるだけで十分。説明する過程で、本人の頭の中も整理されていきます。
また、テストを返してもらったときには、
・「なぜ間違えたのか」を一緒に確認する
・同じタイプの問題を、もう一問だけ解いてみる
といった「振り返り」をすることで、理解が一段深まります。学習の定着は、「やって終わり」ではなく、「少し時間をおいて思い出す」ことで高まりやすいことが分かっています。
3-2. つまずいたときの戻り方と、塾・通信の使い方
どの教科も、「つまずきポイント」は人それぞれです。大事なのは、
・どこまで戻れば分かるようになるのかを見きわめる
・戻る範囲をしぼる(全部やり直そうとしない)
ことです。
たとえば数学で、二次関数が分からない場合、「一次関数」「比例・反比例」「方程式」あたりをピンポイントで復習するだけでも、その後がぐっと楽になります。英語でも、「関係代名詞に入る前の、不定詞や受け身があやしいな」と感じたら、その部分だけを集中してやり直すイメージです。
塾や通信教育を使うときも、「とりあえず全部おまかせ」ではなく、
・この教科の、この単元が特に心配
・高校に入るまでに、ここだけは埋めたい
といった希望をはっきり伝えると、より効果的な使い方ができます。
4. 学年別に意識しておきたいポイント
最後に、小6〜中3の時期ごとに、「このあたりを意識しておくと、高校への準備になる」というポイントをまとめます。
4-1. 小6〜中1:土台づくり期に大事にしたいこと
この時期は、とにかく「読み・書き・計算」の土台づくりが最優先です。
・毎日10〜15分でも、本や記事を読む習慣をつける
・日常の中で、簡単な計算や割合(セールの値引きなど)に触れる
・日記や一行でもいいので、「自分の考えを書く」経験を増やす
小6のうちから英語や塾に力を入れるご家庭も増えていますが、土台がぐらついたまま先取りだけ進めると、どこかで苦しくなりがちです。まずは、「日本語の文章を読み書きする力」と「基本の計算力」が育っているかどうかを、ゆったりと確認してあげてください。
4-2. 中2〜中3:弱点をしぼって「ここだけは」埋める
中2〜中3になると、高校入試も視野に入り、勉強の量も増えてきます。この時期に意識したいのは、
・すべてを完璧にしようとせず、「ここだけは」を決める
・高校でよく使う単元(数学の方程式・関数、英語の基礎文法など)を優先する
ということです。
具体的には、
・数学:方程式、比例・反比例、一次関数、図形の基本
・英語:基本文法一通り+教科書レベルの長文に慣れること
・国語:説明文・物語文のどちらも、要点をつかむ練習
・理科・社会:細かい暗記よりも「全体の流れ」を意識して復習
このあたりを「高校への持ち物」として整えておけば、高校入学後のスタートで大きく困ることは少なくなります。完璧を目指すより、「苦手の底を少しでも浅くしておく」というイメージで取り組むと、子どもも親も気持ちが楽になります。
中学内容のどこまで理解していればいいかは、お子さんの進路や高校のレベルによっても少し変わります。ただ、「どの高校に行くにしても、この辺がスカスカだとツラい」という共通の土台はあります。この記事を参考に、教科ごとの最低ラインをイメージしつつ、親子で無理のないペースで準備を進めていただけたらと思います。


