「こんなに勉強したのに、テストのときに思い出せない…」
生徒さんを見ていて、保護者の方からもよく聞く声です。
これは努力不足というより、「脳の仕組みに合っていない勉強」をしていることが原因のことが多いです。そこでカギになるのが、次の2つです。
- 想起:自分の頭だけで思い出してみること
- 分散学習:時間をあけて、少しずつくり返すこと
この記事では、教室の授業や宿題の設計で大事にしているこの2つについて、理論と実践の両面からわかりやすく説明します。
なぜ「すぐ忘れてしまう」のか? 〜忘却曲線のイメージ〜
ドイツの心理学者エビングハウスは、「人は新しく覚えたことをどれくらいのスピードで忘れていくのか」を実験で調べました。その結果をグラフにしたものが、有名な忘却曲線です。
ざっくり言うと、こんな特徴があります。
- 覚えた直後から、最初の1日で一気にかなり忘れてしまう
- そのあとは、忘れるスピードはだんだんゆるやかになる
つまり、
「テスト前日にたくさん詰め込む → 数日後にはほとんど残っていない」
というのは、脳の自然な働きとして当たり前のことなんですね。
この「忘れていくカーブ」をゆるやかにし、長く覚えていられるようにするために役立つのが、
- 時間をあけてくり返す 分散学習
- 自分の頭で思い出す 想起の練習
の2つです。
「想起」ってなに? 〜答えを見る前に、自分の頭で思い出す〜
テストは成績をつけるだけのものではない
最近の教育研究では、
「テストとして出題されること自体が、記憶を強くする」
ことが分かってきました。これはテスト効果や想起練習と呼ばれます。
大事なポイントは、
「もう一度テキストを読む」よりも、
「問題として出されて、自分の頭から引っぱり出す」
ほうが、長期的な定着に効くということです。
想起のコツ
- 少しう〜んと考えてから思い出せるくらいの難しさがベスト(簡単すぎても、難しすぎても効果が下がります)
- 間違えても大丈夫。答え合わせまでがセットなら、それも立派な学びになります
- 「眺めるだけ」でなく、書く/声に出すなどアウトプットを伴うとさらに定着しやすくなります
ですので、授業や宿題で
- 小テスト
- 短い一問一答
- 「ノートを閉じて、さっき習ったことを日本語で説明してみる」
といった活動をよく取り入れているのは、単に成績をつけるためではなく、記憶を強くするためのトレーニングでもあるのです。
「分散学習」ってなに? 〜時間をあけて、少しずつくり返す〜
分散学習とは、
同じ内容を、1日にまとめてたくさんやるより、
数日〜数週間に分けて、何度も短く復習したほうが覚えやすい
という考え方です。
たとえば英単語なら、
- 「1日で100個覚える」より
- 「1日20個を5日間でくり返す」
ほうが、最終的にテストで思い出せる単語数が増えることが、さまざまな実験で示されています。
理由はシンプルで、
- 時間をあける → いったん少し忘れかける
- そこでまた勉強したり、想起したりする
- それをくり返すうちに、脳が「これは大事な情報だ」と判断して、長期記憶として定着しやすくなる
という流れになっているからです。
教室で「想起」と「分散学習」をどう取り入れているか
ここからは、教室で実際に行っている工夫を、理論と結びつけながら紹介します。
1. 授業の最初に「前回の内容を想起する時間」を入れる
いきなり新しい内容に入るのではなく、授業の最初に
- 前回やった問題の類題を解いてもらう
- キーワードを挙げてもらう
- 「今日は○○の続きだけど、前回のポイントを一言でまとめると?」と質問する
といったウォーミングアップ想起を入れています。
これは、
- 「前の授業」と「今回の授業」の間にちょうどよい間隔をあけて復習する
という形になり、分散学習と想起の両方の効果をねらっています。
2. 小テストや想起プリントで「定期的に」思い出す
単元の終わりにまとめてテストをするのではなく、
- 数回の授業にまたがって、同じ内容が何度か出てくる
- 少し形を変えながら、忘れたころにもう一度出てくる
ようにプリントや小テストを設計しています。
これにより、
- 「その場ではできたけれど、1週間後にはゼロ」という状態を防ぐ
- 「あ、前にもやったやつだ!」という感覚が増え、自信と手応えが積み上がる
というメリットがあります。イメージとしては、忘却曲線を上から何度も上書きしているような感じです。
3. 宿題も「まとめて大量」ではなく「少しずつくり返す」形で
宿題の出し方も、
- 1日で同じ種類の問題を大量にやって終わり
ではなく、
- 何日かに分けて、同じ範囲をちょっとずつくり返す
形を意識しています。
例えば、
- 月:新しい内容の基礎問題
- 水:同じ範囲の一問一答や確認プリント
- 土:テスト形式でまとめて想起
というように、
「インプット → 想起 → 想起+テスト」
を数日に分けて行うことで、問題数そのものは多くなくても定着を高めることをねらっています。
ご家庭でできる「想起+分散」勉強法
せっかくなので、自宅学習にもすぐ使える形で簡単なやり方を書いておきます。
1. 「見る前に、思い出してみる」を一回はさむ
- 単語帳や教科書を開く前に、「昨日やったページの内容をノートに書いてみる」
- 数学なら、「例題の解き方を、解説を見ずに途中まで書いてみる」
など、“見る前に一度、想起する”クセをつけるだけでも、学習効果は変わってきます。
2. 1週間の中に「3回くらいの出番」を作る
ある単元を、1週間のうちに3回くらい登場させるイメージです。
- 1回目:新しく習う/解説を聞く
- 2回目:翌日か2日後に、軽く復習&想起
- 3回目:その週の終わりに、テスト形式で想起
完璧にできなくても大丈夫です。「同じページを別の日にもう一度出してくる」だけでも、分散学習の効果はしっかり働きます。
3. 保護者の方にお願いしたい、かんたんな声かけ
保護者の方にしていただけることは、とてもシンプルです。
- 「今日塾で何を習ったの?」ではなく
→「今日塾で習ったことを、3つだけ教えてくれる?」 - 「英単語ちゃんと覚えた?」ではなく
→「じゃあノート見ないで、5個だけ書いてみようか」
こうした声かけは、そのまま想起練習のお手伝いになります。時間も5〜10分あれば十分です。
まとめ:がんばり方を変えれば、同じ時間でも伸び方が変わる
- 人の記憶は、放っておくとすぐに忘れてしまう
- しかし想起と分散学習をうまく使うと、少ない時間でも定着はぐっと良くなる
教室で、
- 授業のはじめの想起タイム
- 小テストや想起プリント
- 「少しずつくり返す」タイプの宿題
を大事にしているのは、単なる根性論ではなく、脳の仕組みに合わせて、いちばんコスパの良い勉強をしてほしいからです。
このあたりの理屈を知ってもらえると、
- 生徒さん自身も、「なんでこんなに小テスト多いの?」ではなく「これは思い出す練習なんだな」と前向きに取り組める
- 保護者の方も、家庭での声かけや勉強の見守り方を工夫しやすくなる
と思っています。
「うちの子の場合、具体的にどんなスケジュールにしたらいい?」というご相談があれば、お子さんの状況に合わせて、一緒にぴったりの勉強プランを考えていきましょう。


