医学部受験で最も戦略性が問われる要素の一つが「理科の科目選択」です。
特に「物理」と「生物」、どちらを選ぶべきかは受験生にとって大きな決断となります。
実際、多くの医学部では「化学+物理」か「化学+生物」という組み合わせが主流で、
化学は事実上“必修”、もう1科目を「物理か生物か」で選ぶ、という構図になっています。
世間的には「物理が有利」と言われることもありますが、本当にそうでしょうか?
この記事では、それぞれの科目の特徴、得点傾向、志望大学との関係、さらには医学部入学後の学びにも目を向けながら、後悔のない選択ができるよう整理していきます。
なお、本記事の内容をさらに詳しく知りたい方は、まとめの欄にレポートへのリンクを用意していますので、そちらも参考にしてみてください。
1. 物理と生物の学問的特徴と学習スタイルの違い
よく言われる「物理=数学型」「生物=英語型」という表現は、かなり本質をついています。
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物理は論理思考・数学処理の科目。
少数の法則・公式を深く理解し、さまざまな状況に「当てはめて・組み立てて」解く科目です。
グラフ、ベクトル、2次関数、三角関数など、数学Ⅱ・Bレベルの理解が土台になります。
ミスなく積み上げられれば、一気に高得点帯まで伸びやすいのが特徴です。
→ 数学が得意で、「考えて解く」ことが好きな人には大きな武器になりやすい科目です。 -
生物は知識+読解・記述の科目。
教科書範囲だけでも用語・現象・仕組みが非常に広く、暗記量はかなり多めです。
近年の入試では、実験考察・グラフの読み取り・資料問題・記述問題が増えており、
「文章を丁寧に読み、条件を整理し、自分の言葉で説明する力」が強く求められます。
→ 国語や英語の長文読解が得意で、コツコツ覚える作業に抵抗が少ない人に向いています。
このように、どちらが向いているかは、「得意な思考スタイル」と「これまで伸ばしてきた科目」との相性によって大きく変わってきます。
2. 得点の安定性とリスクの違い
同じ「理科」でも、点数の出方は物理と生物でかなり違います。
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物理:ハイリスク・ハイリターン型になりやすい。
設定の理解や立式がうまくいけば、一気に高得点・満点近くも十分狙えます。
一方で、最初の小問でつまずくと後半まで芋づる式に崩れ、極端に点が伸びないこともあります。
模試や本番で「得点分布が両極端(高得点と低得点が多い)」になりやすい科目だとよく言われます。 -
生物:ミドルリスク・ミドルリターン型になりやすい。
満点は取りにくい一方で、基礎知識で解ける小問が多く、6〜8割くらいの得点を安定して出しやすい構造の年が多いです。
設問が独立しているものも多く、「1問の失敗が他の大問にまで波及しにくい」ため、事故が起きにくいというメリットもあります。
イメージとしては、「波は荒いが当たれば大きい物理」 vs 「大崩れしにくくコツコツ積み上げられる生物」という捉え方もできます。
3. 学習時間・負担と教材事情
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生物は暗記+演習でじわじわ仕上げるタイプ。
高2〜高3にかけて、長期的に積み重ねるほど有利になる科目です。
「後半に一気に詰め込む」のは現実的ではなく、早めにスタートしてコツコツ進めたいタイプ。
計画性があり、日常的なインプット作業が苦にならない人に向いています。 -
物理は初期投資が大きく、軌道に乗ると伸びが早い科目。
力学・電磁気・波動・熱・原子と、それぞれで「世界観」を理解するまでが大変です。
ただし、基礎の理解と典型問題の解法パターンが身につくと、その後は演習量に比例して得点が伸びやすい傾向があります。
「最初はしんどいが、あるラインを超えると楽しくなる」科目とも言えます。 -
教材事情は、いまは物理・生物ともに充実。
かつては物理の参考書・問題集の方が豊富というイメージもありましたが、
近年は生物も良質な基礎〜難関レベルの教材が多数出版されており、
「教材の少なさ」が生物のデメリットになることはほぼありません。
4. 物理選択が「有利」とされる主な理由
多くの予備校・塾が「特に理由がなければ物理」と勧める背景には、いくつかのポイントがあります。
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① 高得点が狙いやすく、難関医学部で差がつきやすい。
きちんと仕上げた場合、物理は9割〜満点が十分狙える科目です。
合格者の理科選択を見ると、「化学+物理」がボリュームゾーンになっている大学が多いという傾向があります。 -
② 出題形式が比較的安定しており、戦略が立てやすい。
力学・電磁気など、どの大学でも外せない定番分野が明確で、
過去問研究が得点に直結しやすい科目です。 -
③ 物理必須・物理+化学指定の医学部が存在する。
国公立の一部医学部では、「物理必須」あるいは「物理・化学必須」としている大学があります。
こうした大学を将来の選択肢に入れたい場合、生物選択のみでは受験できないリスクがあります。
「志望校を後から自由に選べる状態を維持したい」という意味では、物理選択はやはり有利な面がある、というのが現在の状況です。
5. 「生物は不利」というイメージ、その真相は?
一方で、「生物は不利」「医学部は物理一択」という言い方も、かなり誤解を含んでいます。
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① 生物選択でも受験できる医学部が多数派。
物理を必須とする医学部は、あくまで国公立の一部に限られています。
多くの国公立・私立医学部は「化学+生物」でも問題なく受験可能です。 -
② 共通テストで生物が極端に不利というわけではない。
共通テスト理科の平均点は年度によって変動し、
「物理だけが毎年高く、生物だけが毎年低い」といった一方的な傾向にはなっていません。
平均点差が大きくなりすぎた年には、得点調整が行われる仕組みもあります。 -
③ 生物ならではの“強み”も多い。
・設問が独立していることが多く、大崩れしにくい。
・化学と内容的な親和性が高く、生体関連分野で相乗効果が期待できる。
・医学部入学後に学ぶ解剖学・生理学・生化学などと内容が重なりやすく、スタートダッシュを切りやすい。
暗記負担が大きいのは事実ですが、「生物だから不利」ではなく、「やり方と相性次第で十分戦える科目」と捉えるのが現実的です。
6. 共通テスト・私立大学での扱い
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共通テスト:年度によって有利・不利は揺れる
共通テストでは、物理・化学・生物の平均点は年によって変動します。
一部の年で生物の平均点が低くなり得点調整が行われた例もありますが、
近年は平均点の差が縮まり、調整が行われない年も増えています。 -
私立医学部:生物でも十分戦える大学が多い。
多くの私立医学部では、理科は「物理・化学・生物から2科目選択」とし、
生物選択でも合格者が多数出ています。
また、一部大学では理科1科目受験が可能な入試方式もあり、
「得意科目1本で戦う」という戦略が取れるケースもあります。
共通テスト・私大ともに、「生物だから不利でどうしようもない」という状況にはなっていないと考えて大丈夫です。
7. 入学後の学習への影響
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生物選択者のメリット
生物選択者は、医学部入学後に学ぶ解剖学・生理学・生化学・発生学などで、
高校内容とつながる部分が多く、講義の入り口で「聞いたことがある」「イメージしやすい」という安心感を得やすいと言われます。 -
物理未履修の不安は、大学側のサポートでカバーされることが多い。
医学部で学ぶ物理は、主に生理学・医用工学・画像診断(X線・MRIなど)で出てきますが、
医学部には物理未履修者も一定数いるため、多くの大学が補講・ブリッジ科目・サポート教材を用意しています。
そのため、「大学で困らないように」という理由だけで無理に物理を選ぶ必要性は、以前よりも小さくなっています。
8. 最終的な選択はどうやって決める?【チェックリスト】
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自分の得意・不得意を正直に把握すること。
・数学(特にⅡ・B)や物理的なイメージが得意 → 物理有利
・読解・記述・暗記が得意 → 生物有利
「苦手だけど評判がいいから」という理由だけで選ぶと、後で伸び悩みやすくなります。 -
志望大学・候補大学の入試要項を必ず確認すること。
・物理必須・物理+化学指定の大学を受ける可能性があるか?
・共通テストでの科目指定はどうなっているか?
・私立医学部で理科1科目方式を使うかどうか?
これらは年度によって変更されることがあるため、
「最新の募集要項を自分の目でチェック」することが必須です。 -
「やらされる科目」ではなく「自分がやりたい科目」を選ぶこと。
医学部受験の理科は、最終的にかなりの演習量が必要になります。
同じ時間をかけるなら、少しでも「面白い」「もっと知りたい」と思える方を選んだ方が、
結果的に伸びやすく、精神的にも楽です。
生物が得意なら、生物で突き進んでも全く問題ありません。
物理に興味があり、数学も得意で、志望校の要件とも合っているなら、物理を選んで攻めるのも立派な戦略です。
まとめ:あなたに合った最適解を見つけよう
理科の科目選択に、「万人にとっての正解」はありません。
大切なのは、「自分にとって最も得点しやすく、学びやすい科目」を選ぶことです。
この記事では、物理と生物の特徴・得点傾向・志望大学との相性・入学後の影響までを整理しました。
もっと細かいデータや具体的な大学名の一覧などを確認したい方は、こちらのレポートも参考にしてみてください。
情報を正しく理解し、自分の性格や学力・志望校と照らし合わせて選べば、きっと後悔のない決断ができます。
どうしても迷うときは、学校の先生や、医学部受験に詳しい信頼できる塾・予備校の先生に相談してみてくださいね。


