『勉強が苦手な子』の自己肯定感を守りながら成績を上げるには
1. 勉強が苦手な子ほど自己肯定感が下がりやすい理由
1-1. 「点が低い=自分はダメ」と感じてしまう心のしくみ
テストの点が低いとき、多くの子どもは「今回のテストが悪かった」ではなく「自分は頭が悪い」「自分はダメだ」と感じやすくなります。まだ経験が少なく、結果と自分の価値を切り分けて考えることが難しいからです。
同じような失敗が何度か続くと、脳は「どうせ頑張ってもムダ」というパターンを覚えやすくなります。この状態になると、新しいことに挑戦する前からあきらめモードになってしまい、「やらないから伸びない」「伸びないからまた自信をなくす」という悪循環にはまりがちです。
特に、周りから「またこんな点数なの?」「ちゃんとやらないからでしょ」と責められる経験が増えると、子どもは「結果」だけでなく「自分という存在そのもの」を否定されたように感じてしまいます。ここで大切なのは、「点数が低いこと」と「人としてダメなこと」はまったく別の話だと、親子で何度も確認していくことです。
1-2. 自己肯定感と学力は別物だと親子で理解する
心理学では、「自分には価値があると思える感覚」を自己肯定感、「やればできそうだ」と感じる力を自己効力感と呼びます。この2つは関連していますが、実は別のものです。
たとえ今のテストの点数が低くても、「自分はダメじゃない」「自分には良いところがある」と感じられていれば、勉強に向き合う力は守られます。一方で、点数はそこそこ良くても、いつも怒られたり比べられたりしていると、「もっとできないと価値がない」と思い込み、自己肯定感は下がっていきます。
成績を上げたいときほど、自己肯定感の土台を守ることが大切です。この土台があると、「今は苦手だけど、少しずつできるようになっていこう」と前向きに考えやすくなります。まずは親が「勉強の得意・不得意」と「その子の価値」をしっかり分けて見てあげることが、スタートラインになります。
2. テストの点が低かったときのOK・NGな声かけ
2-1. 子どもの人格を守る言葉がけのポイント
テストの点を見た瞬間、つい口から出やすいのは「なんでこんな点なの?」「ちゃんと勉強したの?」といった言葉かもしれません。でも、これらは子どもにとって「責められた」「否定された」という記憶として残りやすく、自己肯定感にはマイナスです。
代わりに意識したいのは、次の3つのステップです。
1つ目は、まず気持ちを受け止めることです。
「悔しかったね」「びっくりしたね」「この点数見てどんな気持ち?」など、結果より先に心の状態に寄り添う言葉をかけます。
2つ目は、できている部分を一緒に探すことです。
「ここは前より正解が増えたね」「漢字のミスは減ってきたね」など、小さな成長を具体的に指摘します。「すごいね」だけより、「ここをこう頑張ったからできたね」とプロセスをほめると、子どもは「工夫すれば伸びるんだ」と感じやすくなります。
3つ目は、「次に何をするか」を一緒に考えることです。
「今回は計算でつまずいたみたいだね。次はどこを重点的に練習してみようか」「この教科の中で、一番頑張ってみたいところはどこ?」など、子ども自身の意見を聞きながら、次の一歩を決めていきます。
2-2. イライラした気持ちをぶつけないための工夫
とはいえ、親も人間です。テストの点を見て、将来が心配になったり、イライラしたりするのは自然なことです。大切なのは、その感情をそのまま子どもにぶつけない工夫を持つことです。
おすすめなのは、「すぐにコメントしない」ことです。点数を見てすぐに反応するのではなく、「あとでゆっくり話そうか」と一度時間を置いてから話すようにすると、感情的な言葉が出にくくなります。深呼吸をして、心拍が落ち着くまで数分待つだけでも、言葉のトーンは変わります。
また、「あなたはダメ」「なんでできないの」という<あなたメッセージ>ではなく、「点数を見て、私は少し心配になったよ。どうサポートできるか一緒に考えたいな」という<私メッセージ>に言い換えるのも効果的です。これは親の不安を正直に伝えつつ、子どもを責めない伝え方です。
親が感情をコントロールする姿そのものが、子どもにとって「失敗しても人間関係は壊れない」という安心感につながります。この安心感が、勉強に向き合う力を支えてくれます。
3. 「できた!」を積み重ねる小さな成功体験の作り方
3-1. いきなり100点ではなく「今日のゴール」を決める
勉強が苦手な子にとって、「次は80点取りなさい」「クラス平均くらいは目指そう」といった目標は、遠すぎてイメージしにくいことが多いです。遠すぎる目標は、「どうせ無理」というあきらめにつながりやすくなります。
そこで大切なのが、「今日のゴール」「今週のゴール」といった、すぐに手が届く小さな目標を設定することです。例えば次のようなイメージです。
・今日は計算ドリルを3問だけやる
・漢字を1日5個だけ練習する
・テストの間違えた問題を3問だけ解き直す
ポイントは、「これならやってもいいかな」と子どもが感じるくらいのハードルにすることです。とても小さなステップでも、「やる→終わる→ほめられる」という流れができると、脳の中で「頑張るとちょっと気持ちいい」という感覚が育ちます。
こうした小さな成功体験を毎日少しずつ積み重ねていくと、「自分にもできることがある」という感覚が徐々に強くなり、自己肯定感と成績の両方を支えてくれます。
3-2. 褒め方・フィードバックでやる気を引き出すコツ
成功体験を「ただやって終わり」にしないためには、その後の声かけがとても重要です。おすすめは、次の3つのポイントを押さえたフィードバックです。
1つ目は、「結果」より「プロセス」を具体的にほめることです。
「ちゃんと最後まであきらめずにやったね」「時間を決めて集中していたね」のように、行動や工夫に注目して伝えます。
2つ目は、「自分の力でできた」と感じられるようにすることです。
「ママが言ったからやったんでしょ」ではなく、「自分でスイッチを入れて始められたね」「自分で工夫してたね」と、自主性にスポットライトを当ててあげます。
3つ目は、うまくいかなかったときも「ダメ出し」ではなく、「次につながる振り返り」にすることです。
「今回は時間が足りなかったね。次はどこを短くできそうかな?」「やり方を変えるとしたら何を変えてみたい?」と、一緒に作戦会議をするイメージです。
このようなフィードバックを繰り返していくと、「うまくいっても、いかなくても、一緒に考えてくれる人がいる」という安心感が生まれ、挑戦する力が育っていきます。
4. 勉強が苦手な子に合う具体的な学習サポート
4-1. つまずきパターン別の手助けアイデア
「勉強が苦手」と一口に言っても、つまずき方は子どもによってさまざまです。よく見られるパターンごとに、家庭でできるサポートの例を挙げてみます。
1つ目は、「理解が追いついていないタイプ」です。
この場合、前の学年の内容で穴が空いていることが多いので、少し戻って復習することが効果的です。例えば中学生で分数が苦手な子は、小学生の分数の考え方からやり直すと理解が進みやすくなります。市販のドリルや動画教材など、「短く・分かりやすく」解説してくれるものを選ぶと、負担感が軽くなります。
2つ目は、「集中が続かないタイプ」です。
この場合は、環境を整えることがポイントです。机の上からゲームや漫画、スマホなど気が散るものを片付け、タイマーで「15分だけ集中しよう」と区切る方法が有効です。15分勉強したら5分休憩、というリズムを繰り返すと、「ずっと頑張る」のではなく「短距離走を何本か走る」イメージで取り組めます。
3つ目は、「ケアレスミスが多いタイプ」です。
この場合は、「見直しのやり方」を一緒に練習するのがおすすめです。例えば「答えだけでなく途中式も見る」「単位や符号を声に出して確認する」など、自分に合ったチェック方法を決めておくと、ミスを減らしやすくなります。
4-2. 家庭だけで抱え込まず学校・専門家とつながる
家庭でサポートしても、なかなか成果が出ないこともあります。その場合、「親の関わり方が悪いからだ」と1人で抱え込む必要はありません。学校の先生やスクールカウンセラー、場合によっては発達の専門機関など、頼れるところは思っている以上にあります。
例えば、先生に「家ではこの教科でつまずいているようです。授業での様子はどうですか?」と具体的に相談すると、学校での様子や、クラスの中での位置づけが見えてきます。そこから「板書を写すのが遅いのでプリントを多めに渡す」「テストのときに少し時間を長くする」など、現実的な対応につながることもあります。
また、読み書きや計算が極端に苦手な場合、学習障害や注意欠如・多動症など、生まれつきの特性が関わっていることもあります。これは「怠け」ではなく、その子の脳の特徴です。必要に応じて専門家に相談し、その子に合ったサポートを考えることは、自己肯定感を守るうえでもとても大切です。
親と先生、必要に応じて専門家がチームになって関わることで、「自分は1人じゃない」という心強さを、子どもに感じてもらうことができます。
5. 親自身の心が軽くなる考え方
5-1. 他の子と比べそうになったときの視点の切り替え
保護者の方が一番苦しくなるのは、きっと「周りの子と比べてしまうとき」かもしれません。同じクラスの子やきょうだいと比べて、「どうしてうちの子は…」という気持ちになるのは、とても自然なことです。
そんなときに試してほしいのが、「他の子」ではなく「昨日のわが子」と比べる視点です。テストの点だけでなく、「今日は自分から机に向かった」「文句を言いながらも最後までやりきった」など、行動の変化に目を向けてみてください。
また、「この子のペースでどこまで行けそうか?」と考え直してみるのもおすすめです。全員がトップを目指さなくても、「この子なりの得意」を生かせる道は必ずあります。少し長い目で見て、「今は基礎体力づくりの時期」と捉えるだけでも、親の気持ちはだいぶ楽になります。
5-2. 点数以外の強みを一緒に見つけていく
勉強が苦手な子の中には、絵が得意、手先が器用、友達思い、人を笑わせるのが上手など、点数には表れにくい力をたくさん持っている子が少なくありません。こうした強みは、将来の進路選びや人間関係で大きな支えになります。
時間があるときに、親子で「あなたの良いところリスト」を作ってみるのも良い方法です。親が思う良いところを10個書き出してみたり、先生や身近な人から教えてもらったりすると、子ども自身が「自分にもこんな良いところがあるんだ」と実感しやすくなります。
自己肯定感は、「欠点がないこと」ではなく、「苦手もあるけれど、自分には良いところもある」と感じられることから育ちます。勉強はその一部分に過ぎません。点数に一喜一憂しすぎず、子どもの全体を見ながら、長い目で成長を応援していけるといいですね。
テストの点に振り回されず、自己肯定感を守りながら少しずつ成績を上げていく道は必ずあります。完璧な声かけを目指す必要はありません。「つい言いすぎちゃったな」と感じたときは、「さっきは言い過ぎたね、ごめんね」とやり直せば大丈夫です。その姿勢こそが、子どもにとって一番の安心材料になります。


